はじめに
六本木アートナイト「インクルーシブ・アートプログラム」では、 さまざまな人たちが物理的・心理的バリアを感じずに参加でき、ともに活動することで、新しい気づきを得る対話鑑賞を開催してきました。
エイブル・アート・ジャパンは2019年から企画協力をしています。このレポートでは、5月27日に現地で実施した視覚に障害のある人と、聴覚に障害のある人がファシリテートした鑑賞ツアーについて報告します。
六本木アートナイト2023、今年のテーマは「都市のいきもの図鑑」。鑑賞ツアーは、対話を楽しみながら、図鑑の中を旅するようなアート鑑賞をイメージ。
「みんながおしゃべりトラベラー!」と題し、11名の参加者を迎え国立新美術館のアートナイト展示作品を鑑賞しました。
鑑賞で大切にしたい“対話”
ファシリテーターは、視覚に障害のある井戸本将義さんと、ろう者の徳江サダシさんが担当。特性が異なる2人のファシリテーターによる対話鑑賞は2年目の試みです。
実は昨年の振り返りとして、会話は弾んだものの、それが「対話」であったのか、課題として持ち越していました。
ファシリテーター、手話通訳士、美術館関係者、事務局が、さまざまな立場の視点で意見交換し、今年は参加者との対話を重視した鑑賞を目指し、構成を具体化していきました。
※「対話鑑賞」=美術鑑賞を、言葉を使ってやりとりしながら、作品を深く感じる試み
(「六本木アートナイト2022インクルーシブアートプログラム実施報告書」より)
対話を重視するための構成を考える
1)鑑賞する作品を2つに絞り、対話する時間をゆったりとろう
2)2つにグループに分かれ少人数になり対話を増やそう
(1グループにファシリテーター1人、途中でファシリテーターが入れ替わる)
3)最後にみんなで感想をシェアしよう
そして「触れる作品を鑑賞する」ことにもこだわりました。見えない人(もしくは見えにくい人)にとって触ることは見ることと同等。
本来触感は、人に備わった原始的な感覚。参加者と一緒に触れる作品を鑑賞したいと考えました。
当日の流れ
<みんなで集まり自己紹介>
全員で「今日呼ばれたい名前」や「チャームポイント」を発言しあい自己紹介からスタートです。
そして2グループに分かれてトランシーバーを装着。人流の中で対話するので欠かせません。
<1作品目鑑賞>
屋外でメインアーティスト鴻池朋子氏の作品「狼ベンチ」を鑑賞。
念願の触れる作品、しかも立体作品なので、360度いろんな角度から見るとたくさんの発見があります。
座ったり、触ったり、撫でたり、近くで見たり、遠くで見たり、しゃがんだり、歩きまわったり、個々でじっくり鑑賞する時間をとった後、それぞれグループで対話。その一部を紹介します。
井戸本さんのグループでは井戸本さんから参加者に質問し、参加者が答える形で対話が進みました。
「狼だけど、キバある?(井戸本)」「牙があるような、ないような‥。まるで真珠貝の中の真珠のよう」。
「狼、色は青です」「狼だから茶色かと思っていました。(井戸本)」「座った人いますか?(井戸本)」「冬は冷たそうだけどひんやりして気持ちよさそう」「脚が6本で、頭は2つです」(しばらく顔や脚の向きから想像が膨らみ、対話が発展していました)
「足を気にされている人がいましたが、どう思いますか?触って確認しましょう。(井戸本)」
見えない井戸本さんにとって、参加者の視覚的発言には『?』ハテナマークもしばしば、そんな時は、みんなで一緒に触って確認。触れる作品ならではの対話が生まれていました。
一方徳江さんのグループでは、狼の脚の見え方や、目のひらき具合など、徳江さんからきっかけが提供されスタート。
対話の中で「狼ベンチ」の手話が自然に生まれ、みんなで手話を真似たり‥。初めての対面とは思えない軽やかなコミュニケーション。
手話が伝達の手段としてではなく、交流のために展開されていました。対話の一部を紹介します。
「触ってみた人はいますか?(徳江)」「思ったよりザラザラしていました」「私はツルツルしているなと…」(人により感じ方はさまざまです)「狼ってどんな声?(徳江)」「遠吠えって書いてました!遠吠えは普段の吠え方と違います。(と真似してみせる)何かを伝えようとしているのかな?」。「白い石が敷かれていて、近寄りがたい感じ‥」「そうですね。神社(枯山水)を思い起こす。(徳江)」
屋外の開放感、自由で動きのある鑑賞スタイルで、みなさんの感性が響き合った対話はとても自然な一体感を感じました。
<2作品目鑑賞>
次は館内に移動。ファシリテーターがグループを交代してスタート。ファシリテーターが入れ替わったことで、コミュニケーションのリズムが変わり、最初は戸惑いを感じた参加者も。
2作品目は館内に展示している巨大なトンビ、鴻池氏の作品です。1Fで見上げてみて、それぞれのグループで対話をしました。
エスカレーターから大波のようにうねる外壁面のトンビの動きの変化に見入りながら2Fに移動。
「迫力ありますね!」「目があうみたいです。」トンビにはいろんな動植物や自然物が描かれていて、見つける、感じる、想像する面白さを伝え合います。「さっき見た狼ベンチのような狼が描かれています!」「作品の継ぎ目から光が見える!」「神秘的、人間が生まれていない宇宙のよう」「なんか陰の世界観」と、全員で発見したことを伝え合い、想像を膨らませながら作品鑑賞を楽しみました。
最初に触感的な立体作品を鑑賞したからなのか、質感に敏感な発言や、作品の裏側から見る方も。そして鴻池氏の2作品を鑑賞することで、さらに鑑賞を深めている皆さんの発言が印象的でした。
<感想シェア会>
最後にみんなで輪になって感想を共有しました。
「一緒に見ると、刺激があった」「1人で見ると漠然と見ることが多いけれど、いろんな見方を知ることができた」と参加者からの感想。
ファシリテーターからは、「多様な人が集まり自然と工夫し合ったり、お互いに歩み寄りながらの鑑賞や対話によって、良い場を作ることができた」と井戸本さん。
「お互いの特性でなく、人として感じたことを平等に共有できたと感じた」と徳江さんが話しました。
鑑賞ツアーを終えて
インクルーシブツアーは毎年さまざまな人が参加し、今回も手話通訳を介したコミュニケーションや、見えない人と見えるものの話をするのが初めての方も、たくさん参加していました。
しかし同じ作品を一緒に見て、自分の感じたことを発言したり、聞きたいと思った時、皆さんは自然に工夫しながらコミュニケーションを取っていました。
アートを介することで、誰もがもつ感性が、物理的・心理的バリアを超えコミュニケーションにつながることを実感したツアーでした。
レポート:西田まや(エイブル・アート・ジャパン/東京事務局)