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エイブル・アート・ジャパンの事業

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2026/01/05
*アトリエ活動日のお知らせ
◎東京:泉岳寺
▼アトリエポレポレ(13:30-16:30)
1/10(土)、1/24(土)、2/14(土)、2/28(土)、3/14(土)、3/28(土)
▼エイブルアート芸大(14:00-17:00)
1/12(月祝)、2/7(土)、3/21(土)
※1月の開催日は成人の日(祝日)となりますのでご注意ください。 ◎仙台:上杉コミュニティ・センター
▼アトリエつくるて(14:00-17:00)
2/14(土)
参加方法等はこちら
2024/3/1
*東北事務局が移転しました
・新住所:〒980-0011 宮城県仙台市青葉区上杉4-1-50 1階
・電話・メールの変更はありません
2023/7/1
*事務局開室日
東京・東北とも
月〜金(平日10:00〜18:00)
アクセス・お問い合わせはこちら
2023/3/18
*東京事務局が移転しました
・新住所:〒108-0074東京都港区高輪2-15-24三愛ビル竹館2階203号室
・新電話番号:03-6277-2802
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【レポート】2025年度エイブル・アート・ジャパン通常総会関連企画 「人間が人間らしくあるための手段 ―エイブル・アート・ムーブメントから30年を迎えて」

【レポート】2025年度エイブル・アート・ジャパン通常総会関連企画 「人間が人間らしくあるための手段 ―エイブル・アート・ムーブメントから30年を迎えて」

2025年6月22日(日)に、NPO法人エイブル・アート・ジャパンの通常総総会の関連企画として、トークイベント「人間が人間らしくあるための手段 ―エイブル・アート・ムーブメントから30年を迎えて」を開催しました。

障害のある人の表現に可能性を見出した「エイブル・アート・ムーブメント」が1995年に提唱されてから30年。このケアとアートを結ぶ活動を進めるため、全国各地の協働者とともにNPO法人エイブル・アート・ジャパンは設立され、アートを通してだれもが豊かに生きることのできる社会の実現を目指して活動を続けてきました。

本イベントは、せんだいメディアテーク職員の北野央さん、編集者の多田智美さんをゲストに、また一般財団法人たんぽぽの家理事長の岡部太郎さんファシリテーターにお迎えして、「エイブル・アート・ムーブメント」を提唱した播磨靖夫さん(享年82)の言葉に触れながら、誰もが自律的な文化活動に楽しく取り組める土壌をつくる方法や「人間が人間らしくあるための手段」について考えました。

「エイブル・アート・ムーブメント」とは?

はじめに、たんぽぽの家の岡部太郎さんから、「エイブル・アート・ムーブメント」について、お話しいただきました。

エイブル・アート・ムーブメントは、一般財団法人たんぽぽの家の前理事長である播磨靖夫さんが、1995年に提唱した市民芸術運動です。
1995年は、阪神淡路大震災やオウム真理教による地下鉄サリン事件などがありました。播磨さんは、そんな不安定な時代に、新しい知と美のムーブメントをつくろうと、「エイブルアート・ムーブメント」を提唱します。これは、障害のある人の芸術を新しい視座でみなおし、福祉、芸術文化、まちづくり、市民団体、企業、研究・教育機関、行政も巻きこみながら展開していきます。
現在も、エイブル・アート・ジャパンとたんぽぽの家が中心となり、多様な人を巻き込みながら、だれもが芸術文化をとおして豊かに生きるインクルーシブな社会づくりを目指して活動を続けています。

このムーブメントを提唱した播磨さんは、どんな人だったのでしょうか。
1942年生まれの播磨さんは、元々は新聞記者でした。奈良市局に赴任したことをきっかけに、障害のある人たちが自分たちで居場所をつくろうとする運動に賛同し、たんぽぽの家の活動に参画していきます。そして、たんぽぽの家の理事長として長らく務めながら、新しい働き方や仕事づくりを考える「Good Job!」プロジェクトの推進、アートとケアの関係について考える「ケアする人のケア」、活動の実践者や研究者などいろんな立場の人が交流できるプラットフォームづくりに取り組みます。その功績は、芸術選奨文部科学大臣賞、文化功労賞の受賞などで、広く認められることとなりました。

播磨さんは、2024年の10月に亡くなられましたが、最後の書籍が出版されたのが、『人と人のあいだを生きる 最終講義エイブル・アート・ムーブメント』(発行:どく社)です。
播磨さんの言葉を書籍として残したいと、今日のゲストのひとり、編集者の多田智美さんたちに相談して、2025年の1月末に刊行。エイブル・アート・ムーブメントや播磨さんがどんな人だったかを知ることのできる内容となっています。

■ゲストのおはなし① 北野央さん(せんだいメディアテーク職員)

つづいて、「コミュニティ・アーカイブとしての3がつ11にちをわすれないためにセンター(わすれン!)の試み」というタイトルで、せんだいメディアテーク職員(公益財団法人仙台市市民文化事業団)の北野さんのお話を伺いました。

・北野さんとエイブル・アート・ジャパンの出会い
北野さんが、仙台市市民文化事業団の総務課に配属されていたときに担当していた、「仙台市文化プログラム」という公募共催事業がありました。これは、東京オリンピック・パラリンピックを背景にはじまったものです。北野さんは、障害のある人たちの文化芸術活動を支援・推進するプログラムをテーマとして提案し、公募・審査会を経て、そのプログラムに採択されたのが、エイブル・アート・ジャパン東北事務局の企画でした。これをきっかけに生まれた活動は、仙台市文化プログラムが終わったいまもつづいています。

・「3がつ11にちをわすれないためにセンター(通称:わすれン!)」について
2001年に開館したせんだいメディアテークは、美術や映像文化の活動拠点として、市民が使えるギャラリー、図書や映像資料、CDを借りたり視聴したりできる場所、市民活動できる場所などがあります。

北野さんが、現在せんだいメディアテークで担当するわすれン!は、2011年3月11日に発生した東日本大震災について、市民と協働して、復旧・復興のプロセスの記録活動をしていく事業です。北野さんは、わすれン!の取り組みについて、「人との関わりから生まれるアーカイブ」という言葉を用いて説明されました。専門家が記録するのではなく、写真などのデータや、ものの収集をすることが活動のメインでもありません。まず、記録したい人を募り、その人の記録活動をサポートし、そして記録されたものを後世に残していくために保存・発信するという流れがあると言います。そこに、記録する技術や経験は問われません。

わすれン!の活動の中で、障害に関わる記録活動もあります。障害のある当事者がホストになり、震災時の出来事についてさまざまな障害のある人にインタビューする様子をライブ配信する企画や、たんぽぽの家と協働しておこなったケアする人へのインタビューシリーズ、障害児の親の声を当事者の親が記録する活動などがあると言います。これらはわすれン!のウェブサイトなどで見ることができます。

わすれン!の活動は、プロ野球、草野球になぞらえて、「専門家だけがやるプロ野球ではなく、いろんな人が関わってやる「草野球」に近いよね。そのため、わすれン!は、「草アーカイブ」という呼び方がいいよね」と職員の間で話していたそうです。次第に、海外では当事者自身が記録することを「コミュニティ・アーカイブ」と言うことを知り、現在はその言葉を使っていると言います。

・活動事例〜記録を介した人と人の関わりから新たな記録が生まれる
「3月12日はじまりのごはん『いつ、どこで、なにたべた?』」(協働:3.11オモイデアーカイブ)という企画は、来場者が震災に関わる写真を見て、思い出したことをふせんに書いて写真のまわりに貼っていくというものです。
この企画の背景には、震災に関わる対話の場に来場する人が少なくなっていることがあったといます。どうしたら、震災に関わる記録を見たり関わったりしてもらえるか考えていたところ、わすれン!の活動に協働する団体が行った来場者との対話の中で、「『震災の翌日の朝に何を食べた?』という食をきっかけとした質問であれば、いろんな地域の人が答えやすいのでは?」という仮説が生まれ、このような参加型の展示が生まれたそうです。
たとえば、茶碗にラップをかけてご飯を食べている様子の写真も、そこに来場者のコメントが加わることで、写真だけでは伝えられないことを来場者が教えてくれています。
現在は、コロナ禍の記録を使った参加型の企画もはじまり、コロナのときに小中学生だったこどもたちの関わりしろも生まれていると言います。

・記録がない人の体験 物語をつづる仕組み
これまでわすれン!の活動や記録の展示を開催し、そのアンケートに貴重な体験談をつづってくれる人もいたことから、震災に関わるさまざまな質問を投げかけ、回答を書き込める用紙「インタビューシート」を設置しはじめました。すると、2年間で約580枚、おおよそ39都道府県と海外からの回答が集まったそうです。また、回答者は、震災当時に0歳代・10歳代の人が57%を占めています。
被災地はどこまでかという疑問や、自分と被災度合いが高い他者を比べると震災のことを話しにくくなってしまうことなどから、場所や被災の程度に関わらず固有の物語や体験をつづっていくことを大切にしたいと、現在は、シートの文章を再構成し、いろんな地域の震災当時、子どもだった人たちの体験談をまとめて展示しているそうです。

■ゲストのおはなし② 多田智美さん(編集者。株式会社MUESUM代表。株式会社どく社共同代表)

次に、大阪で編集者として活動する多田智美さんにお話を伺いました。

はじめに、多田さんの最近のプロジェクトについて簡単にご紹介いただきました。日本財団が発行するフリーペーパー『DIVERSITY IN THE ARTS PAPER』のリニューアル、大阪の文化的な活動を耕すウェブメディア「paper C」の企画・運営、Good Job! Centerを設計した建築ユニットo+hの作品集の編集、ヴェネチア・ビエンナーレへの参加など、大阪を拠点にさまざまなプロジェクトに関わっています。そして、たんぽぽの家やGood Job! Centerの情報発信、記録集の作成など、エイブル・アート・ムーブメントの活動にも、編集という視点から長く関わっていただいています。

・「編集とは、夜空の星を結んで、星座を名づける行為」
多田さんにとって編集とは、「夜空の星を結んで、星座を名づける行為」だそうです。濃い青色の夜空に小さな星がきらきらと輝く写真とともに、そう話されました。
「星は目が慣れてくるまで見えない。たとえ、そこにあったとしても、明るい看板がきらめく繁華街などまわりが明るい場所だと、なかなか見えてこない。わたしたちは、派手な発言に目をうばわれてしまいがちだけど、ひっそり輝く小さなできごとや、そのうらにある声を大切にすくいあげたいという想いをこの言葉に込めている」と言います。また、そこには「しっかり見つめることからはじめていこう」という意志もふくまれています。

多田さんは、北野さんのお話に重ねて、自分自身も草の根的な活動からはじまったと話します。多田さんがはじめてつくった本は、関わっていたアートプロジェクトの記録集。そこでの出来事をなんとか残そうと、見よう見まねで企画書をつくり、お金を集めて出版したものだったそうです。そんな営みを続けながら、「野良編集者」として活動をつづけ、気づいたら20年になっていたと言います。
・『人と人のあいだを生きる 最終講義エイブル・アート・ムーブメント』
多田さんが共同代表を務める出版社「どく社」から発行した5冊目の本が、冒頭で岡部さんから紹介のあった播磨さんの本でした。この本について、編集に関わった多田さんから、その内容や、制作の裏話などをお話しいただきました。

この本は、3つの章で構成されています。第一章「最終講義 エイブル・アート・ムーブメント」は、2023年12月に女子美術大学でおこなわれた播磨さんの最終講義の内容がもとにしています。。播磨さんの言葉は、しずかに、そして力強く語りかけてくるようです。第二章「可能性の芸術論」には、エイブル・アート・ムーブメントにかかわる播磨さんが書かれた原稿が収録されています。そして第三章「播磨靖夫の視点原点」では、播磨さんの活動の原点を感じる1970年代から80年代に書かれた原稿のエッセイを収録されています。とくに播磨さんが長年編集長を務めた雑誌『グラスルーツ』もコラムが多く掲載され、当時の息吹が感じられるものにしました。

この三部構成を通して、播磨さんのあるべき社会に向けて力強く推進していく社会運動家としての鋭さと、ユーモアややさしさなど、人としての魅力の両方の側面が伝わることを考えたと、多田さんは話します。
「あとがきにかえて」という文章は、播磨さんが本の完成を待たずに亡くなったため、ともに活動してきた各地の仲間たちに語った言葉で構成されました。また、解説は、播磨さんと長年交流のあった哲学者の鷲田清一さんによる、あたたかくも深いまなざしでづづられた播磨さんとの出来事が掲載されています。その文章の中には、「遠いところ、弱いところ、小さいところに、種があるのです」という播磨さんの言葉も引用されています。

播磨さんに本をつくりたいという話を伝えたときは、「ぼくの活動はいつも道半ばやから…」と言っていたそうですが、一度ご自宅に退院されたときに「少しなら残せることがあるかもしれない。どく社で本をつくってくれないか」と多田さんたちにお願いがあったと言います。
多田さんは、この本を通して、一人ひとりのなかで、播磨さんと生き続けていくための種になったらいいなと話します。北野さんのお話にもあったように、アーカイブを残し、だれかに届けていくという意味では、本というメディアは、本人がいなくなってももう一度出会い直すことができるものになると感じているそうです。

■クロストーク

後半は、北野さん、多田さん、岡部さんの3人のクロストークの様子をお伝えします。

岡部:北野さんが、播磨さんの本を読んでいて印象だったことはなんでしょうか?

北野:当時、播磨さんが草の根の活動に「エイブル・アート・ムーブメント」という名前をつけたように、自分たちの活動に名前をつけることは大事だと思いました。私たちが「草アーカイブ」という名称を用いはじめたとき、「昔は同じようなことはなかったのかな、なんでこの活動をやっているのかな」と、心許なさからふと疑問に思ったことがあります。この本の中には、たとえば、ネアンデルタール人の洞窟の絵画や哲学者ハンナ・アーレントの言葉なども紹介されているのが印象的です。仙台でおこなわれた播磨さんの講演会を聞きに行ったときにも思ったのですが、草の根の活動の根っこをたくましくしたいと考えたときに、いろいろな年代をさかのぼり、これまでの活動や作品、思想や哲学を現在の活動に紐づけて説明してくれることで根っこをたくましくしている方がいると感じ、とても勇気づけられました。

岡部:この3人で事前に打ち合わせしたときに、本の第三章に出てくる「人間が人間らしくあるための手段」や「ブリコラージュ」についての話が盛り上がりましたね。そこでは、「できあいの材料を、できあいの知識と道具を頼りに、なんとかつくりあげていくこと」と書かれています。これは、北野さんのお話にあった、わすれン!の草アーカイブ、専門家がやるのではなく、自分たちでいろんな道具を使って残していくことにつながりますね。
多田さんに質問ですが、本の後半の部分で、このことを取り上げたポイントを教えてもらえますか。

多田:本の後半で取り上げた「面白人間ってなんだろう」「ブリコラージュ」「ネットワーク」などのテーマは、活動を続けるために大切な姿勢が伝わる原稿を選びました。「遊びによって余白がうまれる」「ありあわせのもので自分でやってみる」「不完全性に人が惹かれる」といった考え方は、これからエイブル・アート・ムーブメントを進めていく人たちの背中をそっと押してくれるような、たくさんのヒントが詰まった文章だと思います。

岡部:エイブルアートというと、社会的によく認知されているのは障害のある人のアート全般ですが、播磨さんは、専門家でもなく市民が自律的に自分たちが豊かになるためにいろんな方法を獲得していくこと、それ自体がエイブルアートだと言っていました。北野さんのお話を聞いて、自分たちが生きてきたことを残して後世に伝えていくという視点は大事だと思いましたし、多田さんが編集という仕事で取り組んできたことともつながるなと思いました。

岡部:多田さんは、北野さんのお話を聞いてどんなことを感じましたか。

多田:編集の仕事をしていると、ご本人も気づいていない言葉や、忘れていた大事なことがぽろりとこぼれ落ちる場面に立ち会うことがあります。それは、面と向かってインタビュー取材をするだけでなく、一緒にどこかに出かけたり、活動をともにしたり、空間や時間をともにすることで引き出されることが多く、試行錯誤も楽しく続けています。北野さんのお話を聞いて、だれが聞き手になるかで出会える言葉が変わることや、長い時間を味方につけることで心がほどかれて出てくる声があることなど、編集的な工夫がこまかく綿密に実験されているなとあらためて感じました。

北野:ただ、わすれン!の活動は、まわりから理解されていない部分もあるんです。「いつまでも終わったことをまだやってるの」とか「前を向いてないよね」と言われることもまれにあります。自分たちは、後ろを向きながら、前も向いてアーカイブを進めているつもりなのですが……。震災が終わったことになっている人たちや、自分たちにとって主題ではないと思っている人たちに、どう伝えるかが難しく、私たちがより工夫をする必要があると感じています。そんなとき、播磨さんの言葉「ラディカルに考え、リアルに実践する」「真ん中に根源的なものはなく、周縁に根源的なものがある」が心に響きました。

岡部:周縁といわれている人びとや環境にどう目を向けるかという視点は、エイブル・アート・ムーブメントの活動の歴史とも重なります。だれが被災者で、だれが被災者でないかというお話も、視点の持ち方だと思うんです。エイブル・アート・ムーブメントについても、思想や視点の持ち方なのではないかと言ってくれる方もいました。播磨さんがいなくなったからこそ、提唱者から離れていろんな使われ方をしていくかもしれません。

多田:この本ができてから、いろんな場所で音読会をひらいてきました。たんぽぽの家でも音読会を行ったのですが、立ち上げから関わっている方もいれば、入社してまだ2週間の方もいて、それぞれ読み方がまったく違う。ひとりで読むときとはまったく異なる本の“ひかられ方”を体験できました。こうして行間を埋めるような音読会を通して、そこで聞いた言葉を書き込んでいったら、これまでつくった本の中で一番書き込みの多い本になりました。北野さんの事例にあった参加型の展示のように、この本がいろんな人が言葉を引き出すための”装置”になるといいなと思います。

岡部:さきほど北野さんから、まわりの人に活動を理解されにくいというお話もありましたが、手応えを感じる場面はありましたか。

北野:播磨さんの本にも書かれているように、芸術作品を個人だけで所有するのではなく、活動への参加を促すこと、所有よりは共有、分有することがすごく重要だと思います。たとえば、「3月12日はじまりのごはん」という参加型の企画で、お皿にラップをかけてごはんを食べていた写真がありましたが、その写真を「ラップを備えておきましょう」というメッセージで発信すると、撮影者だけのエピソードになってしまいます。そこに他者の声や体験も重ねることで、記録を持っていない人も、その人の体験やエピソード、存在が見えてくる。1つの事柄に対して、他者が異なる意味を持ちえるという状態(分有)を積み重ねられればと思います。そのためにも、一人ひとりがエピソードをふせんに書き残すという関わりをつくることで、じわりじわりと周辺に広げていくのが大事だと思っています。ふせんを一枚、貼ってもらえるだけでもうれしいです。

岡部:関わりしろをつくるのは大事ですね。障害のある人とアート活動をしていても、つくっておわりではなく、つくったものをみてもらったり、意見や感想をもらうことで本人にフィードバックされて、またつくろうというモチベーションや循環が生まれていると感じます。作品だけが独り歩きしていく良さもありますが、分有することで、作者や関わった人の存在が認識されていく、人と人の関わりが見えてくると思いました。

北野:イベントやウェブサイトなど、いろんな媒体を使って記録を循環していくことも重要視していますね。多田さんから、星にたとえて編集の話がでたときにびっくりしたのですが、わたしも、星にたとえて説明することがあります。わたしたちは、みてもらう人にいろんな星(記録)を用意しておくようなイメージでアーカイブをしています。「この星とこの星をつなぐと、何座になるね」というように、自分の体験をしゃべりやすくする、伝えやすくするための星(参照点)を探せる状況やみられる展示をつくることができたらいいなと思っています。

岡部:多田さんの編集的な視点、北野さんのアーカイブの視点を聞いて、エイブルアートの活動の根本には、共有していくことやみんなで一緒に語り合う双方向性というのでしょうか、播磨さんもケアの双方向性と言っていたのですが、関わりあうことで自分も相手も変わっていく動的な関係をつくっていくことが大事だと思いました。

おふたりから、最後に言っておきたいことはありますか?

北野:播磨さんの言葉を読める第三章は、過去の文章から採用されていますよね。エイブル・アート・ムーブメントという言葉がなかった時代の社会状況や播磨さんの言葉づかいを知ることができてよかったです。いまはあたりまえのように私たちが使わせていただいている言葉がある前の時代に、環境をよりよくするために使われていた言葉・表現を学べるので、私たちが今足りないものを変えていくために必要なことを考えるためのヒントになると思いました。

多田:わすれン!の話から、“記録する側”の視点の大切さにあらためてハッとしました。また、エイブル・アート・ムーブメントについても、単に「障害者アート」と捉えてしまうと、障害のある人による表現や鑑賞すること目が行ってしまいます。でも実際には、障害のある人もない人も一緒にムーブメントを起こす当事者であり、つくる側になることを後押ししてもらえる内容でした。

岡部:ありがとうございます。受け身になってしまいがちな社会の中で、自ら関わっていく、飛び込んでいくという大事なメッセージをいただきました。

多田:良くも悪くも、この本を読むと、エイブルアートやエイブル・アート・ムーブメントが一体何なのか、つかみどころがなくなってしまいます。でも本をつくりながら改めて気づいたのは、エイブルアートには明確な定義がなく、社会の変化や、そこに居合わせた人たちとともに、柔軟にかたちを変えながら生きていくものだということでした。この自由で予測できない動きこそが、エイブル・アート・ムーブメントの魅力なんじゃないかと強く感じますね。

岡部:播磨さんは、エイブル・アート・ムーブメントをきっちり定義しなかったですね。成長していくもので、みんなで一緒に考えてアップデートしていくものという考えがあったと思います。今日この場に参加してくれている人たちとも、これから一緒に考えていきたいですね。

■おわりに

この関連企画は、2025年秋に予定されている「エイブル・アート・ムーブメント30周年記念フォーラム」のプレ企画として開催しました。記念フォーラムは、11月28日(金)、29日(土)、30日(日)の3日間、京都市京セラ美術館の講堂と光の広間にて開催予定です。エイブル・アート・ムーブメントに関わるいくつかのテーマによるトークセッションや、活動展示を予定しています。参加するみなさんとともに、エイブル・アート・ムーブメントのこれまでとこれからを考える機会にしたいと考えています。
先日、記念フォーラムに関する情報を公開しました。次のURLからぜひご覧ください。
URL=https://tanpoponoye.org/news/general/2025/09/100020430/
情報は随時更新されますので、今後の発信も楽しみにしていてください。

■参考資料

ゲストの北野さん、多田さんのお話に出てきた活動のウェブサイトのURLを紹介します。

【北野さん関連リンク】
仙台市文化プログラム
https://ssbj.jp/support/bunkaprogram/

3がつ11にちをわすれないためにセンター(わすれン!)
https://recorder311.smt.jp/

3月12日はじまりのごはん
https://recorder311.smt.jp/blog/42724/

障がい者グラフィティ
https://recorder311.smt.jp/series/graffiti

ケアする人へのインタビューシリーズ
https://recorder311.smt.jp/series/cerers

3.11あのときのホント 今だから言える・聞ける 障害児の親の声
https://recorder311.smt.jp/sound/70183/

インタビューシート
https://recorder311.smt.jp/information/63900/

道のりシート
https://recorder311.smt.jp/information/71793/

【多田さん関連リンク】
株式会社MUESUM
https://www.muesum.org/

株式会社どく社
https://dokusha.jp/

どく社note「生をより深く、美しく変える“エイブル・アート”の半世紀ー文化功労者で、たんぽぽの家元理事長・播磨靖夫の遺作『人と人のあいだを生きる』が発売!」
https://note.com/dokusha_inc/n/nda9f7beb7fb2

レポート:NPO法人エイブル・アート・ジャパン 高橋梨佳